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争乱の時-第19話 魍魎の乱(3)

須佐妖戦帖.jpg

 

逢魔時(おうまがとき)

 

黄昏(たそがれ)をいふ
百魅(ひゃくみ)の生(せう)ずる時なり
世俗小児(せぞくせうに)を外にいだす事を禁(いまし)む
一説に王莽時(おうもがとき)とかけり
これは王莽前漢(おうもうぜんかん)の代を簒(うば)ひしかど、
程なく後漢の代になりし故、
昼夜のさかひを両漢の間に比(ひ)してかくいふならん
鳥山石燕 今昔画図続百鬼「逢魔時」より

 

日暮れ時を古来、「逢魔が刻(おうまがとき〜逢魔が時)」と呼んだ。
昼と夜の狭間。陽が翳り、闇が覆い始める黄昏の時。闇が世界を呑み込み、冥界の扉が開き、 人界へと魑魅魍魎、物の怪たちが禍々(まがまが)しく、蹂躙(じゅうりん)し出す刻。
魔と出逢う刻。忌語なりし。

 

出雲。
「此の魔物たちは古来から伝わる物の怪では無いぞ」武角が問いた。
「何だと思う?」須佐之男は武角に聞いた。
「西洋に聞いた悪魔の軍団の様です・・・・」
「此の軍団を視て、俺は確信した。武角、若日子(わかひこ)と名乗るあいつは偽物だ」
「え?では、あいつは何者ですか?」
「恐らく・・・西洋に云う悪魔サタン・・・」
「サタン!!!?な、何故?此の日本に?」
「其の前に、遠隔視野で神戸を視た。日の本古来の魔物が暴れている。其れを視れば明かだ」
「どういうことですか?」
「奴と手を組んだ魔は、ほんの一握りってことだ。神戸に集まった連中がせいぜいだ。西洋と幕府を一気に粉砕して日の本を穫れるぞ。とでも云ったか?須佐は俺たちが粉砕する。お前らが数千年掛かっても出来なかったことを我らがやってやる・・・と、でも説いたのかもしれぬ。少数だけが賛同したと云うことだ。武角!偽物の若日子以外は皆、雑魚だ。壊滅させてしまえ」
「偽物の若日子は?」
「俺と小角先生で戦う。武角は先ず、全軍を率いて雑魚を全滅させてくれ」
「魔王サタンであれば?」
「何れ程の力を持つ者か解らぬ。視ろ!小角先生が若日子と戦っている。俺は手助けに行く。行け、武角!」

ぴーーーーつ!指笛を吹くと、大空から大八咫烏が飛来して武角を乗せ、舞い上がった。

5mはあろうかという大天狗共が居た。
「天狗族!飛び回る竜を殲滅せよ!」
「おう!武角殿」
天狗族と多頭の竜共の戦いが始まった。電磁波や螺旋の暴風の戦いである。螺旋の暴風に巻かれた竜や蝙蝠(こうもり)は千切れて消滅した。其処に八咫烏に股がった須佐たちも加わった。空(くう)から大槍と手裏剣の嵐をお見舞いした。其の武器に射された竜や蝙蝠は消滅した。1時間程で殆ど壊滅した。しかし、面倒なのは異空間から手や口を開ける謎の化け物だ。
ぐおおおおおーーーーんん。
「どうやる?」

 

素志て武角は陸に降りて行った。
「須佐と土中の神たちよ!あの禍々しい化け物共を殲滅せよ!」駆け回る須佐の足下から無数の物の怪が出て来た。獺(かわうそ)、淡路の狸たちやらの動物神。河童も混じっている。怨霊の宿った無数の蟲・・・此れが奴らに効いた。払いのけるのが精一杯で結局身体中這いずり回った。素志て「喰らう」のである。
獺、狸、河童たちは他の魔物にしがみつき身動き出来ないようにした。其処を須佐たちが滅多斬りにした。

空でも須佐たちが空(くう)から此の蟲を竜や蝙蝠にまき散らした。忽ち骨だけになって消滅した。

「むううう」
偽若日子は空中で此の惨劇を視ていた。
「若日子!」須佐之男が草薙剣を構えていた。小角の杖から螺旋の電磁波が発信していた。其処に武角も来た。
「若日子!いや!サタン!少し日の本を舐めていたな。お前の軍団は消滅しかかっているぞ」
「須佐之男。見破っていたか。流石だ。如何にも儂(わし)はサタンだ」
そう云うとまさに伝説の悪魔の姿になり、素志て身の丈10mほどに大きくなった。背には大蛇を4匹背負っていた。あの京の山麓で出くわしたものだ。

ヨハネの黙示録では、黙示録の獣と同一視されるため、サタン=竜ということが一部、存在する。

 

↑ギュスターヴ・ドレ「ダンテの神曲」地獄編の挿絵

 

「お前が何故、日の本に居る?」
「欧米の奴らは小賢しい手口で他国を乗っ取って来た。が、其れも限界らしい。人間などゴミに等しい。奴らを支配するなら、まずお前らの粉砕だ。須佐之男!何故?欧米は日の本を支配出来ないと思う?」
「何故?だと?」
「そうだ。何故だ?」
「人間たちが必死に抵抗するからだ」
「其れは微々たるものだ。他に力がある」
「他力だと?」
「八百万(やおよろず)の自然神と云うものだ。其れが邪魔をする。正体は不明だ。だが、奴らはお前らとも繋がっている。だからお前らが邪魔なんだ。此れを喰らえ!」
サタンの身体の真ん中が黒い渦の闇の穴が開いた。

 

ごごごごおーーーーー!!

 

「な、何だ?あれは?」
ぐいぐいと辺りの物を引き寄せ始めた。
「あれは巨大な重力場だ!」
其の穴が輝き始めた。辺りの光までも吸い寄せているからだ。
木や土までも舞い上がって吸い寄せられて行った。
其の中には遥か彼方の出雲の村落の衆や家屋も混じっていた。
「うわああああーーー!!」「助けてくれーーーー」

 

「小角先生!仲間を村民達を部落内へ転送してください」
「部落内は異空間だ。其処しか逃げ道が無いな。須佐之男殿!承知した」
数万の仲間たちが部落内に転送された。が、逃げ後れた者たちも居た。
「う、うぎゃああああーーーー!!」
身体が伸びたと思ったら四方に弾け飛んで、闇の穴に吸い込まれた。
「ぐう!何ですかあれは?小角先生」
「三千世界の宇宙の彼方に無限の重力が存在する天体?があると聞いた。何もかも吸い込んでしまい、其処では光をも吸い込まれるそうだ」
「まさにあれではないですか?!」
「奴は宇宙の一部なのかもしれぬ。法力や呪術、思念波、電撃波などより自然の力の方が脅威なのじゃ」
あの異空間の化け物も自分の空間に逃げ込んでいた。
「宇宙の力に勝てるか?勝てまい。奴は其れを持っている・・・・」
「む・・・す、須佐之男さま!」
「武角、残念だが太刀打ち出来ない」
「此のままでは、現世が・・・・」
「わかっている。が、方法はある」
「え?」
「天孫である、わたしが頼んでみる」
「頼む?誰にですか?」
「サタンも云っていたろう?八百万神だ」
「須佐之男殿、武角殿、わたしの研究の1つが八百万神です。此の姿の無い正体不明の神は・・・云わば、宇宙生命体のようなものです」
「何ですか?其れは」武角が聞いた。
「我らが無意識に借りていた力です。山を動かし、川を逆流させ、異空間・・・次元を、時間を、超える力・・・」
「転輪王ですか?」
「違う」
須佐之男は草薙剣を掲げ、咆哮した。


「八百万神よ!われらに力を貸したもう!」

 

すると大空がぐにゃりと大きく曲がった。

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争乱の時-第18話 魍魎の乱(2)

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少し時間を戻した出雲である。
「武角」
「はい、須佐之男さま」
「お前は姿を消すことは出来るが空間移動はどうだ?」
「出来ません。何でも身体を原子と云うものに戻して、空間を曲げて遠くへ移動させるのだと聞いてますが・・・無理ですね。須佐之男さまのを何度か視ましたが、空間の捻れから姿を表します。そんな術は無理です」
「お前なら、ちょっとしたコツで出来るさ。教えよう」
「須佐之男さまの直伝ですか?あ、有り難き幸せです」

数日間、魔を待つ間に夫々(それぞれ)が、術の習得やら戰さの心得などを学んだりしていた。土壙(穴を掘る)し、罠を仕掛けたりもした。土壙と云っても只の落とし穴では無い。下には地獄の釜が待っている。
「武角、お前に此れを渡そう」
「こ、此れは天蝿斫剣(あまのははきりのつるぎ)!」
「そう、色々な名で呼ばれているが、通常は、十拳剣(とつかのつるぎ)。八岐大蛇を抹殺した剣。蕨手刀(わらびてとう)だ。力量(パワー)が違う。少し重いが、お前なら使いこなせる筈」
「須佐之男さまの、かつての愛刀ではないですか!」
「俺には草薙剣がある。日本武尊(やまとたける)と共に在る」


「あの音が聞こえるか?武角?」
「はい、臭気もします」
「武角!来るぞ」
武角は雄叫びを上げた。「皆の者!よいか?!」
「おおーーーー!」

 

ズズズズーーーーーーー


地響きがした。空間がバリッと割れて物の怪共が這い出て来た。
空から四頭の竜が星の数程。飛翔している。


ぐあああ!ぎゃあああ!

どどどっどおーーーー!!


土中から陰惨な魔物共が姿を表した。

其の時間は神戸と同時刻。

須佐たちはある者は大八咫烏に股がり、ある者は山中を脱兎の如く走り飛び去った。
「麒麟(きりん)!」役小角は麒麟に股がり空に飛び去った。
其の後を天狗族が追った。


「始まった・・・・」村で見守ったのは服部半蔵保長である。出雲に保護されて三百年あまりが経った。
まだ戦士としては、うら若い、戦場には出せない童子たちを守る役目だ。
部落自体は電磁波で守られてはいる。

 

空が貪よりと曇り始め、雷雲が響(どよ)めいて来た。

「土中から這い出て来る、あれは何だ?」
「視た事も無い化け物ばかりだ」須佐たちは用心した。視た事も無い・・・と云う事は力もわからない・・・と云う事だ。

山中を走っていた数人の須佐が1つ目の魔物を前にした。蛸(たこ)の如き、吸盤の付いた手を10本程振り回し、1つ目の巨体だ。

空には不気味な魔物が居た。


空間に開いた大きな牙の口。
「何だ?あれは?」終始、蠢(うごめ)いている。消えたかと思うと違う場所からまた出る。
「あれは別空間から一部身体を出している物だ」

 

双頭の蝙蝠(こうもり)のような古代の恐竜のような物が無数に飛び回り始めた。地上には蟲のような魚のようなものが無数に走り回っている。

悪魔のような様相、背に羽があるものは空を不器用に飛び回っている。無いものは地上を走り回っていた。

 

「まだ、来るぞ!須佐共!」


遠方から角の生えた蝙蝠に乗って若日子(わかひこ)がやって来た。

「若日子ーーーー!!」

其の直ぐ後ろに麒麟に股がった役小角が若日子を捉えた。杖から一閃の電磁波を射した。

 

ズバン!

 

「小角ーーーー!」
「若日子、御主も元天孫なら卑劣なやり方はするな」
「卑劣だと?」
「しみったれた工作などするな。堂々と来い!いや、違うか。天孫などでは無いな。お前の望みは、下劣な化け物の大将ってところか」
「只の錬金術師の分際が!一斉攻撃だ!行けーーー!」

 

再び神戸。
神戸港はひっくり返っていた。

佐助が皆に云った。「どっちにしろ、慶喜公は1つやっかいな問題が解決したな」
「何のことです?」
「欧米列国の支配だよ。奴らは昔から幾度も日の本を狙って来た。元寇。基督(キリスト)教の宗教活動からの支配狙い、秀吉はキリシタン弾圧で此れを粉砕した。今回は商売と偽って武器の輸出からの支配。エゲレス(イギリス)は長州に戦争を仕掛けて勝ったが薩摩に破れた。それが第一の失敗だ。ペルーの開港も幕府は幾度も条件を携えてYESと云わず時間稼ぎをした。そして幕府も従うしか無いと思い、各国が私欲を携えて神戸港に来れば・・・此の有様」
「幕府の計画ですか?」
「まさか!違うさ」
「何故?そうなるのですか?」
「俺にも解らん。が、中国や韓は外交調査をしていなかった。昔、信長の時代でも日の本は先刻承知していた。江戸の鎖国時代でもそうだ。そんな事が日本を守って来たことは確かだ。其れと・・・」
「其れと?」
「舞!皆!左右に拡散しろ!正面は空から白狐軍が波状攻撃を加えるぞ!」

 

| 06:12 | 須佐妖戦帖 | - | trackbacks(0) |
争乱の時-第17話 魍魎の乱(1)

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武角は不思議に思った。「慶喜は何故?武器が揃ったにも関わらず、政権を放棄した?」
須佐之男は「慶喜は死など恐れぬ。恥を恐れる。敗戦して自分の首が江戸で晒しものにされることを」と述べた。
「恥をさらさない一番確実な方法ですか?」
「解らぬ・・・彼の考えは。そんな小さな事に拘ったとは思えぬが・・・・魔は幕府が勝利しようが幕府を潰しにかかるだろう。慶喜は知っていたはずだ。政権を放棄すれば矛先は志士に向き、先ず、薩摩藩を襲う。其の間に自分達は逃げ追うせると思ったか・・・傀儡(かいらい)に甘んじたのか?・・・・・」
「更に其の前に我らを潰せば・・・・」
「魔の天下だ」
「処外国をも巻き込みますか?世界を狙いますか?」
「魔もバカじゃない。世界には他の魔族が星の数ほど棲んでいる。其れに対抗しようなどとは思わぬだろう。・・・・・其れと・・・・もしかしたら・・・・・」
「もしかしたら?」
「いや、まだわたしにも読めない事がある」と須佐之男は口を閉ざした。

 

少し史実に触れておく。

「大政奉還」の発案者が土佐浪人坂本龍馬と云う者だ、と云うことを徳川慶喜は知っていた。

土佐参政後藤象二郎辺りからの情報であろうと思われる。此の事が知れたら暗殺されるであろうと揶揄していたからに違いない。徳川幕府の保護を懇願したのではないか?

 

↑永井玄蕃

慶喜は無論、そんな浪人など知らない、が、功労者であることは間違いない。側近の大目付・永井玄蕃(げんぱく)に聞いた(此の人は勝海舟と並ぶ開明派の幕臣で、龍馬ともぞっこんの仲だった)。「坂本に手を出さぬように」と慶喜は永井に伝えた。「当然だ」永井はそう思った。自分の部屋に戻り御布令を出す準備に取りかかろうと机に着くと、知らせの文が置いてあった。「坂本龍馬暗殺されり」

一足遅かったのである。


「武角!来るぞ」

 

神戸港。
港内の水の底から何やらの咆哮がした。
港内には20隻近い軍艦が停泊していた。各国の大使なども居た。
「何事だ?軍艦の軋(きし)み音か?」

 

水面にボコボコと泡が立ち、水蒸気を発し、大きくなっていった。

「海底火山か?」
「港内にそんなもの、ありはせぬ!」
港で幕臣たちがワイワイと騒ぎだした。

 

ぐわああああああああーーーーーー!!

 

海の仲から怪物が現れた。
「う、うわあああああーー!何だ、あれは?ば、化け物だあああ!!」

 

うおおおおおーーーーんん!!

 

2頭だ。其れはまぎれも無い伝説の鬼だった。大鬼である。身の丈20mはあろう。

「うわああーー、た、大砲だ!大砲を持って来い!」

「酒呑童子と茨木(いばらき)童子だ!」


近くに須佐たちと陰陽師たちが待機していた。
「酒呑童子は大江山では?」
「場所など固定するか!」
「佐助殿、我らも出ますか?」
「まて、勝手に出てはまずい。幕府の様子を視よう」

軍艦から一斉射撃が起きた。


バリバリバリ!!


「砲を構えろ!」「ば、馬鹿な!こんな港内で、それも此の艦が密集している場で撃てるか!」
各国の艦である。もし、他国の艦に命中して沈没などさせたら国際問題である。機銃しか使えない。


バリバリバリ!!バリバリバリ!!「撃て!撃てーーー!!」


しかし、鬼たちは機銃などものともしない。
拳を掲げ、軍艦に叩きのめすと艦はまっ二つになり、沈没した。
「う、うわあああああーー」船員たちが海にこぼれ落ち、逃げ出した。其処を鬼は捉えて・・・・喰った!


「ぎゃああああーーーー」

 

陸地に居た者立ちは、此の光景を視ていた。
「な、なんだ?あの破壊力は?み、視ろ!喰ってる!人を喰ってるぞ!」

 

「我は酒呑童子。知っているだろう?そして茨木童子だ」

 

「しゃ、喋った・・・・・」幕臣たちは只、呆然としている。

 

「我らは人喰い鬼ぞ。一人残らず喰ってやる!」

 

と、云いながらムシャムシャと喰うわ、人間を引き裂いてバラバラにしていた。


「ガトリングガン、アームストロング砲を持って来い!」

早々に用意すると陸地から鬼、目掛けてガトリングガンを構えた。アームストロング砲で数発撃ち放った。
しかし、弾は鬼が平手で叩き、軍艦に当たった。

 

ドカーーーーン!

 

忽ち艦は火達磨である。

鬼はバリアの様なものを前面に張り巡らせると嵐のようなガトリングガンの弾が跳ね返り四方に飛んだ。
其の弾で艦上の船員や海に逃げた船員たちが撃ち殺された。

「ぐ、ぐう・・・・」

英仏米蘭伊普の6カ国公使の側近、数人が此処に居た。彼らは怒り、叫んだ。
「将軍を!将軍を呼びなさい!」
慶喜と6カ国公使が居城する大阪城に早馬が飛んだ。

 

港の土中から餓鬼がモコモコと出て来た。其れに此の世の物で無い生き物も出て来た。顔が悪鬼の如きで胴が蛇の物、一つ目の虎の様な物、などなど。およそ此の世のものでは無いものが数千は出て来た。
空には暗雲が立ちこめ、其の中から鵺(ぬえ)や蝙蝠(こうもり)の化け物、四つ頭の龍、視た事も無い鳥らしき化け物が出て来た。其れ等が一斉に襲いだした。
「百鬼や魍魎共だ!」
あまりの至近距離に砲も使えない。兵たちは槍と刀で対抗したが・・・・。空から頭を千切られる兵、餓鬼に喰われる兵。忽ち陸も血まみれになった。
地上に居る人間は只の餌と化した。

 

神戸港に大鳥圭介が居た。なんとか物の怪を振り払い、斬り捨て戦っていた。
「む、無理だ。此のままでは皆殺しだ。民を、民を逃がせ!至急だ!誰か!行け!」
神戸の民達は既に逃げ出していた。
「勝海舟め。神戸の土地が値上がりするからと云うから買い占めれば、なんてこった!化け物の土地じゃねえか!逃げろ!皆、逃げろーーー!幕府なんぞ、糞食らえだ!」

 

大鳥は天を仰いだ。
「須佐殿、助けてくれ。我々では無理だ。力を貸してくれ」

 

大阪城で慶喜は其の惨状を聞いた。
「おのれ!若日子!化けの皮を剥ぎおった!」
各国公使たちは「閣下、何を云っているのですか?神戸に魔物の襲来?馬鹿なことを云わないでください。其れは何か、我々に対する交渉の作戦ですか?」
「本当だ!今、神戸港が襲われている。あなた方の艦を破壊しているそうだ。素志て陸地も数千の魍魎が人を襲っている。儂(わし)は行くぞ!」
「待ってください。ビジネスが先でしょう。そんな与太話に我々は騙されませんよ」
「違う!本当だ。港が、神戸が壊滅されている」
「逃げる気ですか?」
「違う!皆殺しになるんだ」
結局、慶喜は大阪城に足止めをくらった。

 

「須佐殿、須佐殿、わたしの声が聞こえるか?聞こえたら聞いてくれ。頼む。神戸を、神戸を救ってくれ」
其の悲痛な声を佐助たちは聞いた。
「おい、聞こえたか?慶喜公だ。大阪城からの声が聞こえた。時は来た」
佐助が指声を吹いた。

 

ピーーーーーーーーーーッ。


すると待っていたかのように、空には白狐群数千と大八咫烏がジェット機のような早さで飛んで来た。
海から大猿田彦神と大牛鬼数体が現れた。

須佐たちは背中からヒイイロカネの刀を出し、手にはヒイイロカネの手裏剣を持った。うっすらと燃えている。陰陽師たちの手の中には煌煌と光る炎玉が燃え盛っていた。
佐助が大表てに立つと叫んだ。


「全軍、突撃ーーーー!魔物共を全滅させろ!」


決戦の火ぶたが放たれた。

| 22:00 | 須佐妖戦帖 | - | trackbacks(0) |
争乱の時-第16話 大政奉還

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慶応2年(1866年)12月25日

孝明天皇崩御(ほうぎょ)

 

「孝明天皇が崩御した!!」

慶喜は喜んだ。

「尊王攘夷の強健だった孝明天皇が居なくなった。開国に向けられるぞ」

神戸港を開き、洋式軍艦を多数、手にする。薩摩は既に手にしていた。長州も海援隊を経て、薩摩から軍艦を手にしていた。彼らより上回る艦数と武器を計画していた。

「奴らに対抗出来る・・・」慶喜はそう思った。「後は兵だ。最新の銃だ!機関銃(ガトリックガン)だ!農民の寄せ集めの奇兵隊なんぞに負けては武士の恥ぞ!」

 

遠い出雲の地にも知らせが届いた。戦いの準備をしている最中であったし、部落と現世では時間の経ち方が異なる。出雲では武角が着いてから半日ほどである。大八咫烏や天狗族が近隣に待機しだした。

「孝明天皇が・・・崩御した」

須佐之男は皆に話した。

「御上が?!」

「舞を通して感応した。小角(おづの)先生・・・」

「須佐之男殿、わたしも感応した。呪い殺されたと・・・」

「なんと云う悲痛な・・・」村人たちが皆、泣いた。

須佐之男は佐助に感応した。佐助は今、後悔の念に叩き潰されているに違いない。

「佐助!お前のせいじゃない。どうしようもなかった。魔は其処を突いて来るんだ」

「須佐之男殿、宮廷も絡んでいるようです。計画的ですな。除除にいたぶり殺す・・・と云う・・・岩倉と云う男が、かんでおります。魔と共謀したと思えます。しかし、彼は何も手を出していない」

「若日子(わかひこ)の手はずですか?」村人が聞いた。

「若日子と菅原道真だ。宮廷の中に魔との共謀者が居るのが気になる・・・」

 

「解った!」武角が叫んだ。

「武角殿、何が解ったのですか?」役小角(えんのおづの)が問いた。

「魔の目的です。小角先生!佐助たちを神戸に行くよう要請してください」

「神戸に?」

「幕府は軍艦を多数買い入れ、神戸で納品するでしょう。他に多数の武器も納品させる。志士たちに対抗するためです」

「攘夷派の御上が居なくなって好き放題を始めるか?」

「そうです。魔になんぞ手を借りなくとも志士なぞ、ぶっ潰してみせると。火力で勝るために」

「魔は、どう出る?」

「神戸港を襲い、外国にも脅威を視させる」

「神戸港を襲ったら、幕府との共謀の話はどうなる?」

「全て嘘です。解っていたはず。岩倉を誘った宮廷の陰謀、幕府に云った志士の壊滅。全て嘘です」

「そうか・・・。外国に脅威を視せ、日本には手を出すなと・・・・魔め」

「外国は日本を商業で騙し、属国にしようとしている。魔は我らが日本の支配者だぞと。だから須佐は頭の上のタンコブです。我々の動きを拡散し、力を半減させる。出雲も神戸港も一気に襲うでしょう」

「つまり、神戸港に武器が納品されるのを待っているわけだ」

「そうです。どうも出雲を中々襲って来ないと思った」

「若日子はいったい何れ程の部隊を持っているんだ?」

「わかりません。が、我らが思うより格段に多そうです」

 

「此の戦いは歴史に無い大規模な戦(いくさ)だ。全国の神々、妖怪たちを呼び寄せよう」

役小角は咆哮(ほうこう)した。

「生き残りを掛けて、我らの住処を穫らせるな!出雲の近隣、神戸の近隣、東北、蝦夷地、四国、九州、沖縄、手のある者は戦え!須佐之男と須佐からの発信だ!」


全国の屈、土中、祠、海中、空(くう)から咆哮がした。
全国の市民たちは畏れおののいた。
「何が起こる?空が海が土中が吠えている」

 

慶応3年(1867年)1月9日 明治天皇即位
2月6日 徳川慶喜、大坂城でロッシュと会見
3月25日 徳川慶喜、各国公使を謁見(〜29日)。兵庫(神戸)開港を確約し、各国公使の信頼を得る。
4月14日 高杉晋作肺結核にて死去
5月4日 四侯会議(松平慶永、島津久光、山内豊信、伊達宗城)
5月24日 徳川慶喜、四侯会議を制し、兵庫開港の勅許を得る。会議側の敗北にて薩摩藩、武力倒幕の方針。
10月3日 土佐藩主山内豊範、「大政奉還」の建白書を徳川慶喜に提出。
10月14日 徳川慶喜、政権返上を明治天皇に上奏(大政奉還)。朝廷、これを受け、薩長に倒幕の実行延期の沙汰書を下す。倒幕の大儀を失った薩摩藩は、江戸で放火・掠奪・暴行などを繰り返し幕府を挑発する。

 

再び、出雲部落。
「大政奉還?慶喜が認めたと?江戸幕府を放棄したのか?信じられん・・・・」武角は空(くう)を仰いだ。
「坂本龍馬とやら、土佐浪人の案だと云います。其れを土佐藩参政後藤象二郎が受けたそうです。武角殿は坂本に京で会ったそうですな」舞から思念派を受けた小角が云った。
「坂本ですか・・・変わった輩でした。小角先生、須佐之男殿、人世とはわかりませんな」
「しかし、そう簡単には、はい、終わりです・・・とは行かないでしょう」
「坂本は、此れで幕府からも志士からも恨みを買いますね。幕府側の者達は江戸時代を終わらせたとして、志士たちは振り上げた刃の向けどころを無くされたこと。・・・双方が血を視なければ収まらない」
「その通りです」
「魔も肩すかしですね」

 

11月15日 坂本龍馬、中岡慎太郎暗殺される。(近江屋事件)
12月7日 ロンドン覚書に従って、兵庫が開港される。それを祝うため、英・米・仏の艦艇17隻が集結。各国公使も大坂に滞在。
12月9日 王政復古大号令。徳川慶喜の将軍職辞職を勅許、江戸幕府廃止。
12月12日 徳川慶喜、二条城を退去。翌日大坂城に到着。
12月16日 徳川慶喜、英仏米蘭伊普の6カ国公使に、外交権は幕府が保持していることを宣言。
12月25日 庄内藩、江戸市中での騒乱活動に対する報復として薩摩藩江戸藩邸を攻撃。28日には大坂に伝わり、幕府は朝廷へ討薩を上表。

 

出雲。勝太と云う高齢の須佐、他、御付き2名が薩摩から戻った。
「勝太、ご苦労。薩摩の説得はどうだった?」
「駄目です。無駄な戦いだと説いたのですが・・・誰一人聞き入れてくれる者は居ませんでした」
「西郷や大久保は?」
「藩主の云いなりです。西郷は慶喜の首を穫らねば収まらないと・・・」
「無駄だったか・・・」
「天孫降臨の地。天の逆鉾の地。我らには敬意を祓ってくれますが・・・」
「天若日子が魔だとは信じない・・・・」
「そうです。武角さま、藩主島津は、何時?儂(わし)は将軍になれるんだ?と宣(のたまわ)っているそうです」
「長州も同じだ。王政復古など大嘘だ。幕府の後は藩同士の戦かもな。愚かな」
「天皇など当て馬です。彼らは私欲で動乱を起こしているだけです」
「真に国の未来を考えていたのは、土佐の浪人たちだ。海援隊だ。身分制度の過激さにうんざりしてた連中だ。亜米利加(アメリカ)の自由さに憧れた連中だ」
「はい、他にも人物は何人か居りますが・・・」
「坂本ほどの行動力と人間的魅力、思考を持った者はそう居ない。暗殺など・・・馬鹿なことをするものだ。・・・・魔の匂いが立ちこめて来た。佐助たちも感じている筈だ。折しも孝明天皇崩御から1年か。御上、何処かで見守っておりますか?」

 

魔との全面戦争が近い。

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争乱の時-第15話 孝明天皇崩御

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慶応2年(1866年)12月21日

 

「佐助殿、此れは憑依ではござらぬ」

「え?と云うと?陰陽師殿」

「脳の中に入り込んでいるようです」

「脳の中に?」

「つまり、御門を脳を刺激して夢の中で探っているんです」

「では、起こせば善いのですか?」

「其れすら、探られているんです」

「どうすれば祓(はら)えるんですか?」

「悪霊が頭の中に取り憑いていれば、やり方はありますが、直接、脳に入るこんでいては・・・危険です」

「何故、危険なんですか?」

「我々が何かすれば、脳を暴発させるでしょう」

「助ける方法は無いのですか?」

「ありません。死が唯一の方法です」

周りの側近達が、どよめいた。

「御門を殺せと?!なんと云うことをおっしゃる!」側近達が騒ぎ立てた。

「佐助殿!須佐の力でどうにかなりませんか?!」

「・・・・・何も出来ません・・・・」

 

陰陽師は悲痛な貌(かお)でこう述べた。

「此れから夢の中で御門を苦しめます。拷問をしたり・・・と」

「なんと云う陰惨なやり方だ。昔、宮廷に雷雲を起こし、呪い殺したのとは訳が違う」

 

「う、うううーーーー」御門が苦しんでいる。

 

「御門!御門!」

「く、苦しい・・・・朕は・・・磔(はりつけ)にされている・・・手と足を釘・・で打ち抜かれて・・・・苦し・・い・・・・」

「意識がある!御門!」

 

「佐助殿、此れはわざとです。より、苦しめさすためです」陰陽師が呟いた。

 

「お、鬼が・・・・槍で・・朕を・・や、やめろ!・・・」

 

「まるで基督(キリスト)の磔の様だ。御上を帰天させましょう」

「ま、待ってください。そ、そんな御門を殺すなど!」宮廷たちは反対した。

「しかし、此のままでは窶(やつ)れて死を待つだけです!」

「協議を、協議をさせてください」

 

宮廷たちは場を去っていった。佐助は視た。岩倉具視が、やけに怯(おび)えていたのを。

「岩倉は何を怯えているんだ?」

 

「佐助殿、このやり方は・・・怨霊が出来ることではないです」

陰陽師が横で囁いた。

「出来ることじゃないって?現に御上は其れで苦しんでいますよ」

「脳に直接入り込むなど・・・出来ない」

「云っている意味が理解出来ませんが?」

「頭の中と脳の中とは違うんです。頭の中とは感覚です。頭の中なら祓いは出来ますが、脳の中とは、大脳に直接働きかけます。云わば脳に巣喰う病原菌のようなものです」

「つまり・・・・」

「大脳に幻覚を視させます。病原菌に祓いは効きません・・・取り出すことも・・・・」

「病原菌とはまだ此の国では認められていませんね」

「はい、だから説明しても理解出来ないでしょう」

「医学を持っても直すのは無理。ましてや怨霊が直接入り込んだ細菌のようなもの・・・・ですか」

「理解不可能だと思います。怪訝(おか)しいのは・・・・」

「怨霊などと云うものが一人で出来ることでは無い?」

「そうです。想像ですが、誰かが御門のお茶っ葉や酒に幻覚剤を入れておく・・・少量づつ飲ませて時間をかければ疑われない・・・」

「陰陽師殿、天皇の厨房などに部外者が立ち入るのは無理です。が、完全なものなど無い。大瓶や茶葉、特に粉茶などに混ぜておけば善い。毒味が居ても気づかない。確かに御上は体調が優れなかった」

「人間の脳は繊細です。異物が入れば直に反応する。除除に行って意識が遠のくようになったら、脳内に入り込む。道真公はそんなことが出来る悪霊なんでしょう」

「しかし、誰が毒物を?」

「思うに道真公は若日子の一派でしょう。奴なら空間移動で何処にも入り込める

。厨房など軽いものです。そうして毒を入れたんです」

「厨房に入っても御上の好みなど解らないでしょう」

「其れを教えた者が宮廷に居ます。道真公、若日子とグルです。若日子に操られている者、あるいは脅されている者が宮廷内にいます」

「厨房を探れば何か薬物が出る・・・と云うことですね」

「想像が当たっていれば・・・です」

「幻覚を自由に探って除除に呪い殺すなど・・・なんと云う残酷な・・・・」

 

其の後、天皇は苦しみ続けた。側近、宮廷は決断が出せぬまま、時だけが過ぎて行った。

「彼らが決断してくれねば、我らは何も出来ない」須佐と陰陽師は苦々しく思った。

厨房を調べるよう佐助は要望した。しかし、本人にはさせず、行ったと云うが、毒は出なかった。

 

慶応2年(1866年)12月25日

孝明天皇崩御。其の死に顔は悲惨であった。

奇しくも其の日は基督の誕生日。前日、天皇は磔の基督の様にされた夢を視ていた。

菅原道真公の悪霊は消えていた。

 

佐助は一つの確信は得ていた。「岩倉だ。奴が犯人だ。しかし、何の証拠も無い。犯人探しなど宮廷は我らにさせないだろう」尊王攘夷の強健だった孝明天皇。志士たちと孳尾(つる)んでいた岩倉。何故?そんな彼が天皇を殺そうと思ったのか?世継ぎの誘惑か?何か政(まつりごと)か?若日子は何をした?須佐と陰陽師には解らなかった。

素志て彼らは何も出来ず、天皇を苦しめて呪い殺されてしまった。

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